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白エビ漁師

 岩瀬の商店街を歩いて行くと、やがて運河に沿った通りに出る。運河には歩行者専用の「大漁橋」が架かっている。漁船が下を行き交うため、太鼓橋になっている。橋を渡ると岩瀬諏訪町になる。私は一軒の家の前で立ち止まった。白エビ漁に従事している漁師さんを訪ねて来たのだった。

 漁師というとどうしても、顔が赤銅色に日に焼けた年配の人を想像してしまうのだが、出てきてくれたのは、色白の細面の青年だった。それでも腕は太い。三十そこそこといったところか。今起きたばかりという眠そうな顔をしている。漁に出るのは夜明け方で、寄港するのは正午頃だという。どうやら、一仕事終えた後の、午睡を邪魔してしまったようだった。

 早速、白エビ漁の話に入った。何よりも先に気付いたのは、彼が「シロエビ」と呼ぶ事だった。百科事典には「シラエビ」と出ているのだが、彼に限らず、この辺りでは「シロエビ」と呼ぶ人の方が多い。そして、県西部ではその体形が偏平なところから「ヒラタエビ」と呼んだりするそうだ。

 漁場は、神通川河口沖約1500m。そこにアイガメと呼ばれる水深100m位の谷がある。アイガメとは、谷や川筋が海中にまで伸びた深い溝のことで、富山湾では庄川沖の新湊漁場、常願寺川沖の水橋漁場にもそれぞれ存在し、白エビ漁を行っている。

 漁獲高は岩瀬漁場が最も多く、また、白エビ漁を専門にする漁師がいるのは岩瀬だけだということだった。ちなみに、白エビそのものは国内なら糸魚川や静岡、海外なら北欧や地中海でも獲れるには獲れるが、漁獲と呼べるほどの量ではない。つまり、白エビ漁は、世界中でここにしか存在しないということなのだ。遠くフランスのシェフでさえ、「イワセ」の地名を知っているそうだ。

 では、白エビは高級魚なのか?という質問をぶつけてみた。

 彼が子供だった頃は、かなりの高級魚だったらしい。年に二度だけ、つまり盆と祭りの日だけ、スリ身やおすましにして食べさせてもらったという。「昔はこれくらい白エビが獲れるだけで、漁師は食って行けたもんだと聞いてます」と、彼は両手を抱えるようにした。とすれば高級魚どころか上に超の一文字をつけてもいいだろう。「今はそれほどじゃありません。おかしなもんですよね。昔以上に皆が白エビ、白エビと言うようになったのに・・・」
 
帰りにも私は大漁橋を渡った。彼の祖父や父親の時代には、この橋は木造だったらしい。彼は三代目の白エビ漁師だった。橋の上から見る夕陽の赤さが、この上なく美しく見えた。

 

   

投稿者 ほたるいかの水井 : 2006年5月1日 13:18